性の相談を仕事としていれば、一定数のいたずら電話を受けるのは仕方ないことです。
現在は予約が成立してから電話番号を伝えていますが、以前HPに問い合わせ先として掲載していた時は、しょっちゅういたずら電話がありました。予約を検討するフリをして性的な単語を引き出そうとする電話なのですが、あまりにいたずらが多くなってきたので電話の公開を止めました。

予約とお支払いをいただいてからの正式な電話カウンセリングでも、性的な電話はあります。
気晴らしに女性と猥談がしたいとか、自分の妄想を語りたくて作話をするという程度なら、それもひとつのストレス発散になるので特に問題はないと考えています。
しかし以前、不思議な怖さを覚えた電話がありました。
（ご相談内容は個人が特定できないよう変更を加えてあります）

 

Tさん（35）は10日に1回程度、夕方に予約をしてきました。非通知でかかる電話ならよくあることなのですが、彼はいつも公衆電話からかけてきていました。真冬の公衆電話で1時間はかなり寒いはずです。カウンセリングを公衆電話で受けるのは初めてだったので、ちょっと違和感がありました。

Tさんの主訴は妻の姉との不貞でした。
それ自体は珍しいことではありません。事実の場合もあるし、セクシュアルファンタジーとしてパートナーの親やきょうだいとのセックスを想像する人は男女共にたくさんいます。

Tさんも多分作話なのだろうな、と思いつつ聴いていました。
しかし、作話の場合は回数を重ねると自分の作ったストーリーを忘れてしまい、矛盾が生じることがよくあるのですが、彼はいつも細部の辻褄がきちんと合っていました。

また、時には義姉のことではなく、自分の思春期の体験や妻との出会いなどを語ることもありましたが、その時々の心情がよく描写されていて、興奮目的のいたずらとは思えないものでした。

Tさんは淡々と出来事を語るだけで、「～に悩んでいる」「どうしたらいいのだろうか」といった言葉を発することがありません。
でも相談料を払い続けてかけてくるのだから、この電話によって何かを得たいと思っているはずです。
彼は何を変えたいのか？彼の気持ちに寄り添って聴こうと思いながらも、私は彼に妙な不気味さを覚えていました。

それは、電話をしている時に流れてくる「効果音」のせいもありました。

公衆電話のはずなのに、雑音交じりに女性の声がするのです。よく耳を澄ませると、それは女性のあえぎ声とわかりました。あえぎというか、悲鳴のような声に聞こえます。AVを流しているのか、実際彼のセックス場面で録音したものなのかわかりませんが、わざと私に聞かせているとしか思えません。それなのに電話口の彼の声はあくまで淡々と静かなのです。

相談の回を重ねる毎に、話はエスカレートしていきました。元々義姉とのセックスはSMプレイだったのですが、プレイ内容がハードになっていきました。

「強く叩くのは好きじゃないみたいなんだけど、泣きながらもよく濡れてるんだよね」

「アソコに色々入れるのが面白い。ホントに色んなものが入るんだよ。ビール瓶の底の方を入れて、アナルにはコーラの瓶。そのカッコはアートだね」

「牛乳とか石鹸水を入れて浣腸する。入れる量は多いほど感じるんだよ。３リットル位かな。脳でイッちゃうんだよ、一歩間違うと危ないけど。知り合いはやり過ぎて脳がやられて精神科病院行きになったらしい」

ここまで来るとむしろ作話であってほしいと願うようになりました。

私は時々「罪悪感の部分をもっと教えてくれますか？」「この電話はあなたにとってどんな意味があるのでしょうね」などと彼の心の方に水を向けましたが、結局時間が来るまで淡々と不貞話が続けられるのでした。

 

しかしある時、終わり際に突然、

「先生は僕の話を嫌がってましたよね？」
と怒った口調で聞かれました。

「いえ…理解できない部分もあるけれども、そういうこともあるのかと…」
としどろもどろになったところ、

「なんかテンション下がるよなあ」
と言ってガチャリと切れました。

その後は二度と予約が入りませんでした。

 

相談が中断したのが、単に話すのに飽きただけなら構わないのですが、クライエントに不快な思いをさせてしまったのは私が反省すべきところです。

Tさんは私にもっとノリよく聴いてほしかったのか？
逆に私が彼の行動に疑問を呈し、いさめるような発言をすることを望んでいたのでしょうか？

いずれにしても、私が彼に対して疑念や不安を持って接していたことがバレていたのです。
どんな相談内容であれ、私のカウンセラーとしての姿勢が誤っていたことは確かだと思います。

Tさんの心の奥底にある不安や寂しさを私がうまく受容できなかっただけならば、自分の力不足に尽きるのですが、性の電話相談の難しさを痛感したケースとして、今でも強く印象に残っています。

 

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