マッサージも浮気でしょうか
相談内容には時代による変化があります。
浮気の相談もこの10年でだいぶ変わってきました。
たとえば浮気が発覚したきっかけは、相手のスマホが偶然開いていて、
LINEのやり取りを見てしまったというのが大半です。
何が浮気になるのか?という基準も変わりました。
以前は「風俗は気にならない」という妻がけっこういましたが、
最近はそういう「遊び」も許さなくなっています。
そしてこの2~3年で急増しているのが「メンズエステ」に関する相談です。
メンズエステとは男性向けのマッサージサロンのことです。
性的接触は一切行われないものの、セラピストは全員女性で、
ちょっとセクシーな衣装で施術してくれたりするので
男性にとってはリラックス効果と同時にドキドキ感もあるようです。
2年前、Aさん(48歳)からこんなご相談がありました。
(相談内容は典型例として背景を変えてあります)
Aさんは暗い面持ちで面接室に入り、涙ながらに1時間話し続けました。
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結婚20年、ずっと主人(53)を信じてきたのに裏切られました。
彼のお財布の中身が偶然見えてしまって、女性の名刺を見つけたんです。
メンズエステ○○と店名がありました。
胸騒ぎがしてネットで調べたら女性セラピストがマッサージしてくれるところみたいでした。
「一切性的行為はいたしません」と書かれてたし、そんなに怪しいところではなさそうだったけど、若くてキレイな子がキャミソールにショートパンツの制服を着てる写真が載ってて、こんな子に触られたのか・・・と思うとショックでした。
主人を問い詰めたら一瞬ハッとしていたけど、すぐに
「ただのマッサージだよ、何を怒ってるんだ」と言われました。
「どんなことするの?」
と聞いたら詳しく教えてくれて、それもネットで見たのと同じだったんで、
ウソはついてないんだな、と思いました。
でもとにかく許せなくて感情を抑えられなくて、私はパニックになってしまって、
大泣きしたり主人を叩いたりしちゃいました。
もともとまじめで物静かな人なので黙ってガマンしてくれて、
「気に入らなかったのなら悪かった、もう行かない」と誓ってくれました。
それからその店に行ったのかどうか、本当のことはわかりません。
どちらにしても私の傷ついた心は治りません。
主人とはセックスレス気味で盆暮れ状態だったし、
自分ではそれを何とも思っていなかったけど、
もしかして不満に思っていたのでしょうか?
主人から誘われれば応じていたけど、私では満足できなかったのかも。
最近生理も不順で、もう女として終わりなのかなと悲しくなっています。
真剣に離婚も考えています。とりあえず落ち着くまでは別居するつもりです。
大学生の娘は「バカバカしい。そんなの浮気に入らないよ」とあきれているようですが、
よその女性に肌を触らせたというだけでも私にとっては浮気なんです。
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Aさんに「整体や温泉浴場などでのマッサージだったらどう感じましたか?」
と聞くと、
「普通に着衣でのマッサージならまあ許せる。でも浴場でゆかたとかだったら嫌かな。
ていうか、女性のセラピストだったら全部嫌かも」とのこと。
「Aさんは本当にご主人のことが好きなんですね。たとえ施術でも他の女性に触れさせたくないほど」
「普段意識してなかったけど、そうかもしれません。誰かが触ると思うだけでカッとくるかも。
それに私に隠して通ってたことが許せないんです」
何に傷ついているのか整理する
そこでAさんの傷つきポイントを整理してみました。
・Aさんに黙ってエステを受けていたこと。これまでどこに行くにもちゃんと報告してくれる人だったので、余計にショックだった。
・女性が夫の素肌に触れたこと。夫の体に触る権利があるのは妻だけだと思う。
・夫が慌てて「リラックスできるんだよ」「普通に気持ちいいしコリがほぐれたから通ったんだ」と弁解したこと。「気持ちいい」という一言が許せない。
・Aさんの怒りを理解してくれていないこと。表面上は謝るが、内心どうしてこんなことで怒るんだろう、と疑問に感じているのが透けて見える。
ということがわかりました。
Aさんは離婚や別居と言っていましたがそれは本音ではありません。
カウンセリングに通いながら、過去にガマンしてきたことや夫婦生活に消極的だったこと、ご自身の仕事や子育ての苦労などについて振り返りながら、何とか前を向いてこれからのことを考えていこうと思うようになりました。
Aさんにはこんなアドバイスをしました。
自分の気持ちを伝えるとともに夫を理解する努力を
・何に傷ついたのか、カウンセリングで気づいたことをそのまま夫に伝えてみる。
・伝えるときはできるだけ夫を責めないように。「私は~が悲しかった」という言い方で、あくまで自分の感情として伝える。
・怒りが抑えられない時があるのは仕方ない。ただ、落ち着いたら「さっきはごめんね。あなたが大切だからこそショックからまだ立ち直れていない」と気持ちを伝えておく。
・男性にも更年期があり、50歳前後の男性は性機能が落ちてくるため自信を失いやすい。衰えた性機能を復活させたくて、ドキドキ感を求めて性的興奮を得られるところに行くことがある。しかし夫は風俗や女性との浮気に走ることなく、自分の中での性的関心を喚起させたくてエステを試したのかもしれない。だからといって許せないことは許さなくていいのだが、更年期の男性心理を理解しておくことも必要である。
・気分の変調はAさん自身の更年期の影響もあるかもしれない。婦人科を受診し適切な治療を受けることも効果がある。
・自分が楽しいと思えることをする。仕事でも趣味でもいい。少し夫から気持ちを離して、自分のことに専念する時間を作る。
Aさんは数回の来談の中でだんだん変わっていきました。
夫がメンズエステに行ったことが許せない気持ちは変わりません。
でも過去を責めても仕方がないし、もし今後また行ったとしても、夫の行動を100%監視できるわけではない。
結局夫を信じるしかないのだということに気がつきました。
これまで築いてきた夫婦の歴史を続けたい。
嫉妬も含めて愛情だから、夫への愛情がある自分を肯定したい。
これまでだいぶおざなりになっていた夫婦生活も見直して、恥ずかしくても自分から求めてみる。
これをきっかけに自分が将来どうなりたいのか、どんな人生にしたいのかを考えてみる。
これまでやりたくてもやれなかったことに挑戦してみようと思う。
と言って笑顔が出るようになりました。
夫婦関係が修復するまでまだ時間はかかるかもしれませんが、
この事件はこれまで当たり前と思っていた夫婦の絆を見直すきっかけになったことでしょう。